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Q52
全社的な改革を成功させる自信がありません……
- 2025-10-20
- 経営企画部 部長(50代)
不動産業界で経営企画部長を務めています。
先日、社長から「将来のAI活用を見据えて、全社的なIT戦略と業務改革を進めるように」との指示がありました。
過去にIT導入した際の資料を参考に焼き直しし、経営企画部内でのIT活用を提案したところ、「もっと全社的な改革でないと意味がない」「複数部署だけで小さくまとまるな」と突き放されてしまいました。
実のところ私自身、他業界からの転職組であるため、実務の細かいところは把握できておりません。また、社内に人脈や横のつながりも少なく、全社的な企画を立案し、多部署を巻きこんで進めることに自信を持てずにいます。
一方で、営業をはじめとする各部部門の若手社員の中には、課題感を持ち「この機会に会社を変えていくべき」「部署間に横たわる課題も解決しましょう」と意欲的な発言をする者が何名かいます。
このような状況で、全社的な計画や提案をどのように考え、他部署をどのように巻き込めば良いのでしょうか?
A52
「タスクフォース」を編成し、全社的な改革を!
本質問を一読し、「将来のAI活用を見据えて全社的なIT戦略と業務改革を進めるように」という社長指示は、極めて適切で時宜にかなった命題であると感じました。
この命題のポイントは、会社の将来を見据えた全社的なIT戦略の策定であり、業務改革を進めるという重要性と緊急性を兼ね備えつつも、簡単に達成できる課題ではないという点です。
社長がこの課題の推進を、経営企画部長であるあなたに期待していることは明らかです。別業界からの転職組とはいえ、(あるいは転職だからこそ)あなたの能力や今までの実績・経験を買われ、「あなたなら出来る」という信頼のもと、この指示が出されたものと推測されます。
そこで、あなたが実務の細かいことが分からず、社内のつながりも不足し、他部署を巻き込んで全社改革を進める自信がないと困っていることは、よく理解できます。
しかし、よくよく考えると、本改革のような会社の将来を左右するような大きな仕事を与えられたということは、他業界から来たあなたにとっては、またとない大きなチャンスであると捉えるべきではないでしょうか。
どんなに困難な課題であっても、あなたほどの立場の方であれば、衆知を集め、知恵を絞り、本気で課題に立ち向かうことによって活路を見出し、大きな成果を収められると信じています。
とはいえ、この全社的な改革は、あなた一人、あるいはあなたの部署だけで解決できる問題ではないことも事実です。
幸いなことに、他部署には、頼もしい意欲的な若手社員がいます。そのやる気ある人財を最大限に活用し、「全社的な改革」に取り組みましょう。
まず「将来のAI活用を見据えて全社的なIT戦略と業務改革の推進」は、会社の最重要課題であると認識する必要があります。この課題は、恒常的なルーティン業務とは異なり、会社の将来を左右する極めて重要かつ緊急性の高い命題です。したがって、今ある組織で業務を進めるには少々無理があると言わざるを得ません。
この変革を「有事(非常事態)」と捉え、全社を挙げて取り組むべきであると私は考えます。そこで、経営企画部長として社長に対し「タスクフォース(TF)」を編成して取り組むべきだと意見具申すべきです。それほどに本課題は重要であり、その趣旨が伝われば、社長にも決断していただけるはずです。
今回は、企業等で使われる「タスクフォース」について、私なりの考え方等を以下に示し、参考に供したいと思います。このタスクフォースの考え方を理解すれば、本問題の解決に大きく前進できるでしょう。
タスクフォースとは
タスクフォースとは、「特定の任務(Task)を遂行するため、特別に編成された部隊(Force)」のことです。元々は軍事用語であり、アメリカ軍が作戦に取り入れて以降、日本の自衛隊においても採用されてきました。
つまり、軍隊が緊急任務達成のために特別に編成する「機動部隊」を指し、そのまま「タスクフォース」、あるいは「任務部隊」と訳されます。
私も40数年前(30代の頃)から自衛隊において、任務達成のため必要かつ重要で緊急性の高い場面で「タスクフォース」を編成し、任務に当たる作戦計画を立案した経験が幾度もあります。
タスクフォースを編成する際に最も重要なのは、通常の恒常的な組織では緊急かつ特定の任務を達成することが困難だと判断した場合にのみ、これを編成すべきだという点です。もちろん、タスクフォースの編成にあたっては、利点と欠点の両方がありますので、十分考慮の上、編成の可否を判断する必要があります。
ビジネスにおいては、恒常的な組織では解決困難、または非効率な場合に、緊急性および重要性の高い課題を解決するために臨時でタスクフォースを編成することがあります。
それでは、ご質問の課題解決のため、タスクフォース編成について、以下に私の考えを述べたいと思います。この考えは、経営企画部長として社長に意見具申する際の論拠として活用できるはずです。
- タスクフォース編成の目的
- 効率的、効果的な短期解決:特定の緊急かつ重要な課題について、通常の組織では解決が困難なものを、短期間に効率的、効果的に解決するため。
- 全社横断的な知見の統合:全社横断的な内容であり、専門的な知見が必要とされ、一部署では解決できない課題に対応するため。
- 会社の命運を左右する課題への対応:将来にわたり影響が大きく、会社の命運を左右するような重要性、緊急性がある課題を確実に推進するため。
- リーダー(社長)の決断の重要性
タスクフォースは、特定の緊急かつ重要な課題を、一定の短期間で達成するために編成されるものであり、リーダー(社長)にとって極めて重要な意義を持ちます。そのため、軽々に編成されるものではありません。 なぜなら、優秀な人材を一定期間、他部署から招集したり、付加的な任務を与えたりして編成されるため、リーダー(社長)の並々ならぬ強い意思と決断が不可欠だからです。あなたは社長の決断を補佐する者として、信念を持ってタスクフォース編成の意見具申を行うべきです。 - タスクフォース編成にあたって考慮すべき事項
- ①リーダー(社長)の決心に資する情報を提供すること
- ②タスクフォースの達成すべき目標を明らかにすること
目標は具体的に達成すべき目標(必達目標)と、達成することが望ましい目標(望成目標)を明確にすること - ③編成にあたっての具体的組織と人選が重要
※「組織の一例」参照。人選は全社横断的に優秀で意欲のある社員を登用し、タスクフォースの具体的な組織体制を構築すること - ④期限を決めるなどタスクフォースの実行の日程(業務予定表)を作成すること
- ⑤報告にあたって、何をいつまでに報告するか(最終目標)を明らかにすること。この際、必ず中間報告も計画すること
- ⑥予定の通り業務が進捗しない場合の代替案やリスク対策についても考慮しておくこと
- ⑦タスクフォースの任務終了時以降について(移管先等)も事前に検討しておくこと
※組織の一例

<要検討事項は以下の通り>
- 各班はあくまでも一例に過ぎないので要検討のこと
- タスクフォースの必要人数と適任者の選定を適切にすること
- 各班の果たすべき任務、目標を明確にすること
(注)組織表は一例に過ぎないので、会社の実情に応じて編成してください
以上、タスクフォースについて詳細に述べてまいりましたが、任務の特性に応じたタスクフォースの編成の際の参考になれば幸いです。
本件は、まさにタスクフォースを編成して取り組むべき「絶好の事例」であると思われますので、特別にタスクフォースの概要と活用法を解説させていただきました。
ただし、タスクフォース編成には、当然ながら利点と欠点があります。実行にあたっては、リーダー(社長)の決心・決断が極めて重要です。真に緊急かつ重要な場面において、社長の意思に基づき編成されるべきものです。
どうか本回答の趣旨を深く汲み取っていただき、経営陣が牽引するかたちで全社的な改革を成し遂げてほしいと願っています。
そのため、社長の補佐者である経営企画部長のあなたの役割は非常に重要です。「他業界からの転職組だから」「実務の細部がわからない」「社内のつながりがない」といった点は、もはや関係ありません。
「仕事は未知のことへのチャレンジ」と考え、意欲を持ってこの課題に取り組んで下さい。
いま問われているのは、社長補佐者としてのあなたが、いかに組織を活用し、タスクフォースの編成などを意見具申することで、「社長の決心に貢献するか」ということです。あなたの真の意欲が試されていると考え、決して逃げることなく全力を尽くしてください。あなたなら出来る!と確信しています。
今回のまとめ
全社的な改革を成功させるために
- 改革の緊急性・重要性・困難性に鑑みて、タスクフォースの編成について知恵を絞って意見具申をすること
- 困難な任務をもらった時こそチャンスと捉えて、積極的かつ前向きに打開の道を検討すること
- タスクフォースの考え方を本質的に理解すること
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回答者: 呑田好文
元陸上自衛隊レンジャー教官。2002年退官(陸将補)
2018年よりアメリス顧問。2024年2月より同取締役。サロン・ド・アメリス講師。
何かを成し遂げるためには、出来ない理由を考えるより、出来る理由を考えることに尽きます。特に会社の将来にかかわるような重要なことに対しては、「夢と希望」を持って立ち向かう姿勢こそ、最も美しいものです。前を向き、毅然とした態度で臨む姿勢が、周囲の人に「感動」を与え、変革の力となるでしょう。
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