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Q57
「明文化された基準」がない組織。
一人の髪色をきっかけに
後出しの「禁止ルール」を作るべきか?
- 2026-3-23
- 建設事業者(A社) 人事部長 40代
人事部長として採用拡大に奔走する中、中途採用社員(I社員)の「派手な髪色」が大きな波紋を呼んでいます。当該社員の部門長評価は高い一方、人事担当役員は「あのような身なりの社員は認めない。基準がないのが問題だ。即刻ルールを策定し本人を指導せよ」と詰め寄られています。
弊社は採用時に髪色に関する制限などは伝えておらず、そもそも明確な身だしなみの基準は存在しません。「基準がないことが組織の統制を欠いている」という上司の指摘は一理あると考えます。しかし一人の事例をきっかけに、今さら「後出し」で全社ルールを作るべきなのでしょうか。ルールの欠如という組織課題と、特定個人の事例をもとにしたルール化の是非との間で、板挟みになっています。
A57
会社としての「基準」を確立し、
組織の価値観を明文化する
人事部長として、採用した社員に対する現場の評価と役員の方針の間で悩まれるお気持ち、お察しいたします。この問題の本質を解くために、まずは「基準」の重要性と、それが組織においてどのような意味を持つのかを整理し、その上で具体的な指導法やルールのあり方について述べていきます。
1.会社としての「基準」がないことが最大の課題
まず、今回の問題において、「会社としての基準(物差し)がないこと」が最大の課題です。会社としての基準があって初めて当該事案がどうであるかを客観的に評価できるのであって、基準がなければ、それは単なる「個人個人の意見のぶつかり合い」に終始してしまいます。
本件のような身だしなみに関する基準は就業規則に含まれるべきものです。会社としての基準が明文化されており、それに違反する場合には、たとえ優秀な社員であってもその事案は「非違行為」となります。今回のケースを機に、個人の主観ではなく、組織としての「物差し」を確立する必要があります。
A社としてやるべき事は、人事担当役員の仰る通り明確な基準を作成し、それを伝えることです。これはA社としてのリーダーの意思決定です。
ここで重要なことは、基準を定める際は、一人の特定事例のために作成するのではなく、時代に合わせ、会社としての継続的な組織活動のための重要な価値観、あるいは会社の意思を示すために作成する、ということです。それが今後のA社の良き伝統・文化となります。
2. 社会人としての身だしなみと、なぜ「基準」が必要なのか
さて、改めて「なぜ髪色が問題になるのか」という根本に立ち返ってみましょう。
I社員は優秀で働きぶりは良く、チームに欠かせないとのことです。I社員は何ら問題がないように思ってしまいます。しかし、私は仕事が出来れば何をやっても構わないというような考えには賛成できません。社会通念上の常識やビジネスシーンにおけるリスクを無視することはできないからです。
社会人として髪を派手に染めてはいけない理由には、主に以下5点のようなことが考えられます。これこそが基準として明文化すべき根拠となります。
- 「清潔感」「真面目さ」の欠如
髪が明るいとビジネスシーンでは清潔感がなく不誠実な印象や落ち着きがない印象を持たれることがあります。 - 信頼関係に影響
顧客や取引先は髪色を「社会人としての身だしなみ」の判断基準にする傾向にあり、信頼関係を損ないかねません。 - 業界・会社ごとの「社内基準(身だしなみ)」
多くの企業が髪色に関する基準(あるいは暗黙のルール)があり、派手な髪色が制限されているのが現実です。 - 組織の協調性・統一感に問題
一人でも明るい髪色の人がいると、職場の雰囲気や統一感が保たれなくなる恐れがあり、協調性・統一感のない会社、組織と判断されることがあります。 - 日本独自の価値観・文化
髪色に関する意識は変化しつつありますが、「黒髪」が常識という認識があり、極端な髪色は「チャラついた」「怖い」といったネガティブなイメージを持たれることがあり、異質な外見が敬遠されがちです。
以上のようなことから、最も問題視されるのは人に(顧客や他社員に)不快感を与えていないかということです。不快感は、会社に対する目に見えない損失を与えます。また他社員に対しても悪影響を及ぼすことになりかねません。
確かに昨今、学校やスポーツ界、一部の企業でも身だしなみは緩和傾向にあります。しかし、こうした緩和が採用に有利に働くか、安易に同調すべきかは慎重に考える必要があります。
1から5に照らして、周囲に不快感を与えない範囲であれば許容の余地はありますが、結局のところ基準がない現状ではその判断すら曖昧になります。重要なのは、その「許容の境界線」を個人の感覚に委ねず、組織としての「TPO基準」を定義するこ とです。
実は私がこの質問をいただいた時に最初に頭に浮んだのが「TPO」でした。「TPO」をわきまえた対応がプロには求められるということです。
「TPO」とは、時、場所、場面に応じ服装(髪色も合め)などを使い分けることを言います。自衛隊時代にも厳しく言われましたが、「いつ、どこで、どのような場面か」を考えて、身だしなみ(服装、髪など)、言葉遣い、立ち居振る舞いを適切に使い分けてその場に相応しい言動や態度をとること。これはプロとしての基本です。
この基本を「組織の基準」として明文化すること。それがあって初めて、客観的な指導が可能になるのです。
3. 「基準」がない現状での具体的な指導の進め方
では、明確な「基準」を策定する前に、当面、人事部長として具体的にどのようなステップでI社員を指導すべきか。その進め方を確認します。今回のケースでは、「基準」を作成する前のI社員への指導となるため、以下の点に注意して進めてください。
- 派手な髪色をなぜしているのかを聞く
(本人の価値観や意図をまず受け止めます) - 派手な髪色がなぜいけないのかを説明する
(先述した清潔感や信頼関係への影響、組織の統一感などビジネス上の理由を論理的に伝えます) - 本人が納得しない場合は、根気強く指導を継続して結論を急がない
(感情的な対立を避け、組織人としての自覚を促します) - 将来のルール遵守を約束させる
(今後定めるルールに、A社の社員として従ってもらうことを伝えます)
ここで強調したいのは、基準を作成するのは、特定個人を裁くための後出しルールではなく、これからの組織が健全に拡大するための「未来への基準」であるというスタンスで臨むことです。
基準等のルールは社員を縛り付けるものではなく、一社会人として社員の健全な成長を促すものです。それがひいては、会社の団結と発展に寄与するものとなるでしょう。
4. 組織としての決断と「社員の心構え」
A社の人事部長として、I社員の働きぶりを認めつつも、策定した基準に反する「非違行為」が見られる場合は、断固として指導して下さい。
それを放置することは無秩序、無責任体制を蔓延させる原因となります。
今後は採用段階から基準に基づき判断する体制を整え、「わが社はこれで行く!」というリーダーの意思を明確に示すことが必要だと思います。
身だしなみ等の基準を作成して、社員に徹底するとともに、A社の今後の良き伝統・文化として根付かせ、継承されていくことを切に願うものです。ルールは社員として守るべきもので、組織を強くするためにあるのです。
さて、終わりにあたり、自衛隊の「自衛官の心構え」というものがあります。A社でも「社員の心構え」を定着させてはいかがでしょうか。会社にも社員としての心構えなるものがあっても良いのではと思います(会社によって基本方針やValueの中に定めているところもあります)。
以下、一例として私の考える社員の心構え5項目を参考までに記述します。
- 挙措容儀の端正
(社員は常に身だしなみを整え、他人(顔客)に不快感を与えないこと) - 積極的業務の遂行
(社員は進んで難局にあたり、積極的に業務を遂行すること) - 責任の自覚
(社員は与えられた業務を責任を持って完遂すること) - 個人の充実
(社員は常に自己研鑽に励み、向上心を持って成長すること) - 団結の強化
(社員は周りの人とコミュニケーションを図り、協調して業務に当たること)
このような社員の心構えを浸透させつつ、守るべきルールを作るも一案かと思い、あえて記述しました。
特定個人を対象としたルール作りではなく、挙措容儀(身だしなみ:服装、髪色、言葉遣い、立ち居振る舞い)としてルール化する他、社員として守るべき事項(挨拶の励行、時間の厳守、報告の積極的実施等)も一緒に考えることが大切です。以上、参考になれば幸いです。
今回のまとめ
- 会社としての明確な「基準」を明文化し、主観ではなく「組織の評価」を行う
- 基準に反する事案は、組織の秩序を守るための「非違行為」として指導する
- ルールは特定個人のためではなく、会社の将来の価値観を示すために作成する
- 「TPO」を軸に、ビジネスパーソンとしての身だしなみ(挙措容儀)を徹底する
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回答者: 呑田好文
元陸上自衛隊レンジャー教官。2002年退官(陸将補)
2018年よりアメリス顧問。2024年2月より同取締役。サロン・ド・アメリス講師。
まもなく桜の季節、今年は例年より開花が早いようです。3月、4月は卒業、入学・入社など親しい友人との別れと新しい人との出合いの季節ですね。ワクワク気分で新しい出合いを楽しみにしましょう!!
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