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中間管理職板ばさみ相談室
板挟みの悩み多き中間管理職。あなたの悩みが、みんなのヒントに!?
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あなたのお仕事の悩みにお答えします。
Q55
「お得意様からの急なご要望、
どこまで対応すべきですか?」
- 2026-1-19
- IT業、マネージャー(40代)
弊社はシステムリプレイスを請け負うIT業者で、私はプロジェクトリーダーを務めています。長年の取引先であるX社様のプロジェクトで板ばさみとなり、窮地に立たされています。
現在プロジェクトは、各段階(フェーズ)に設けられた「フェーズゲート」を通過し、要件定義が完了した段階です。これから開発へと進むタイミングで、お得意先のX社から、双方合意済みの納期・金額・品質はそのままに「不要としていたオプションも追加してほしい」という緊急の変更依頼がありました。
X社は長年お付き合いのあるお得意様のため、社内の営業部門は「現段階での手戻りは少ないし、大事な顧客の要望だから全て飲んでほしい」と、コストやスケジュールを無視した要求を押し付けてきます。
一方、社内の開発部門は、「そんなのは無理な話だ。今更変更する余裕もないし、ダメなものはダメ」「そのためにフェーズゲートがあるのを知らないのか」と、原則論で一切の妥協を拒否しています。
社長に直接相談したところ、「この会社には恩があるから、俺の顔を立ててうまく調整してほしい」と、曖昧な指示を与えられてしまいました。社長は営業出身なのでおっしゃる気持ちもわかるのですが……
私としては、このまま合意済みのものを、言われるままに受け入れてしまうと、今後もX社様から同様の要望が増え、プロジェクト全体が計画通りに進まなくなるのではないか、という強い不安があります。
板ばさみ、いや四方(X社様、社内の営業部門、開発部門、社長)に挟まれたこの状況を、プロジェクトリーダーとしてどのように考え、整理し、打開すべきでしょうか?
A55
「良きに計らえ」を「勝てる戦略」に変える
顧客であるX社の無理な要求、それに対する社内の営業部門、開発部門の立場の相違からくる意見の対立、そして曖昧な社長の指示、まさに「四面楚歌」の状態ですね。プロジェクトリーダーであるあなたとしては、本当に困った問題かと思います。
このような板ばさみ状態のトラブルに遭遇することはビジネス活動においてはよくあることです。何とか解決の道を探らなければなりません。
こんな時には常に基本に立ち返って考える習慣を身に付けることが重要だと思います。問題解決のために根本的な原因は何か、何を重視して対処するかを考えることです。 そもそも、トラブル解決のために要件定義があると思うのですが…… ここでシステム開発におけるプロジェクトについて基本を復習しておきたいと思います。
まず、要求定義は「ユーザーが何を求めているのか」「何を解決したいのか」「何が欲しいか」という顧客の課題や理想像(抽象的な要望)を明確にする段階です。 次いで要件定義は要求定義で明確になった要望を「どうやって実現するか」という具体的な「システムが満たすべき条件(要件)」に落とし込む段階です。
これがプロジェクトを成功に導く鍵であり、ここで定義された内容が設計・開発・テストなど全工程の基準となり、認識のズレを防ぎます。また曖昧なまま進めると、開発途中で仕様変更が発生し、コストや期間が無駄になるリスクが高まりますので、手戻り防止のためにも要件定義は極めて重要なものです。
そのためにプロジェクトの各段階(フェーズ)で「フェーズゲート」が設けられ、次のフェーズに進むための条件が満たされているかを評価・判断する仕組みとなっています。
つまり、フェーズゲートは、プロジェクトの進捗に伴い、各フェーズにおける①問題点やリスクの早期発見・対策、②手戻り防止、③資源の適切な配分などを目的としています。
さらにフェーズゲートの主な機能は以下の通りです。
- 意思決定の支援……プロジェクトの継続・中止または修正(方向転換)の判断に資すること
- リスク管理……問題点やリスクを早期に発見し、後工程での大きなトラブルを未然に防ぐこと
- 品質向上……各段階で要求される成果物や条件が満たされているか確認すること
- 資源の最適化……有望なプロジェクトに経営資源(ヒト・モノ・カネ)を集中すること
- その他……ゲートでの評価と判断など「進捗状況」「目標達成度」「リスク」「資源」などを評価し、次のフェーズに進むかを決定すること
これらにより、プロジェクトはより計画的かつ効率的に進み、リスクを最小限に抑えながら目標達成を目指せます。
以上、システム開発プロジェクトについての基本を簡単に振り返りました。
<リーダーとして「状況判断の思考過程」を理解し、
社長の意思決定を引き出すべし>
本設問では、要求段階が完了し、開発段階に差し掛かろうとしている段階です。
フェーズゲートを通過して双方合意済みの要件に対し、「納期や金額・品質はそのままに、当初不要としていたオプションも付けてほしい」という緊急の変更依頼ですね。かなり無理がある要求と言わざるを得ません。
これに対し営業部門は「手戻りも少ないし大事な顧客だからすべての要望を飲んで欲しい」とのこと。 開発部門は、「そんなのは無理な話だ、フェーズゲートは何のためにあるのか」と一切の妥協を拒否している状態。社長は「この会社には恩があるから俺の顔を立ててうまく調整するように」とのことです。
八方塞がりならぬ「四方塞がり」「四面楚歌」ともいえる今回の問題解決のために、日頃私が述べている「状況判断の思考過程」を念頭に置き、問題を整理して解決の一例を示して本質問の回答としたいと思います。
<呑田直伝!状況判断の思考過程>
状況判断とは、リーダーが任務達成のため、最良の行動方針を決定するために行なうものです(思考作用ともいいます)。また、状況判断に基づく最良の行動方針を実行に移すリーダー意思決定が「決心」です(指揮作用ともいいます)。
状況判断の要領は以下の通りです。
- 任務分析
- 状況および行動方針の明確化(状況:わが社の状況、X社の状況 等)
- 各行動方針の分析
特性(利点、欠点)および問題点を発見し、それぞれの実行可能性や処置すべき事項を明らかにする - 各行動方針の比較
- 結論
以上の状況判断に基づき、「決心」(リーダーが腹を決める、リーダーとしての意志決定)をします。

ここからは各ステップに沿って、詳しく解説していきましょう。
1.任務分析
ITマネージャーであるあなたの任務は、「プロジェクトリーダーとしてX社のプロジェクトを期日までに完遂すること」です。 本件の場合、社内およびX社からの要求・要望に対して、密に調整を行い、遅滞なくプロジェクトを進めなければなりません。
私があなた(相談者)の立場に立って任務分析を行ったところ、下記が目標として設定されるのではないかと推察します。
- 必成目標(必ず達成しなければならない目標)
- 要件定義から開発段階へ、フェーズゲート(段階関門)を通過した双方合意済の開発を、手戻りは最小限にして完遂して納品すること
- X社との関係は今後とも良好な状態を保つこと
- 社長の指示(意思決定)を明確化させるための補佐をすること
- 望成目標(達成することが望ましい目標)
- X社からの緊急依頼に可能な限り応じること
- 営業部門と開発部門の関係も問題がないように解決を図ること
任務分析についてはこちらも参考にしてください
2.状況分析および行動方針の検討
任務分析によって目標が明らかになったら、次に状況を分析し、行動方針を列挙のうえ検討しましょう。
- 全般の状況
- あなた=X社のプロジェクトリーダー
- 状況=要件定義完了(プロジェクトの根幹の決定)/フェーズゲート(段階関門)を通過、双方合意済の要件→開発段階
- 各関係者の要望
- 【X社】
納期や金額・品質はそのままで「不要としたオプションも欲しい」
=緊急の変更依頼
※A社:長年のお付き合いのあるお得意様 - 【わが社】
- 営業部門:現段階での手戻りは少ない。大事な顧客の要望である
=「 要求を全部飲んで欲しい」 - 開発部門:そんな要求は無理。今更変更する余裕もない
=「ダメなものはダメ」 - 社長指示:X社には恩がある。顔を立ててうまく調整してほしい
= あいまいな指示 - あなた(プロジェクトリーダー):受け入れるとX社から同様の要望が増える恐れあり
= 強い不安
- 営業部門:現段階での手戻りは少ない。大事な顧客の要望である
- 【X社】
まさに四面楚歌の感があり、いずれももっともな意見、本当に困りましたね。どうしたらいいのでしょう。そこでどうすれば良いか、行動方針の検討を行いましょう。
行動方針の検討
行動方針の列挙にあたっては、特色のある案を出すことが重要です。ここでは前記の状況から以下の行動方針を考えてみました。本来、作戦立案(Operation)の慣例に従えば「O-1、O-2」と表記するところですが、今回は比較検討のしやすさを考慮し、「A案・B案・C案」として整理しています。
- A案(O-1):X社の要望を、全面的に受け入れる
- B案(O-2):今まで通りの開発予定に基づき変更しない(X社の要望を受け入れない)
- C案(O-3):A案、B案の折衷案とし、X社との交渉を継続して妥協案を模索する
3.各行動方針の分析
行動方針を検討したら、各方針の分析へ移りましょう。分析にあたっては、各行動方針の特性および問題点を発見し、各案の実行可能性および実施に際しての留意事項を明らかにすることが重要です。

4.各行動方針の比較
ここでは、各行動方針の比較のための要因を選定し、評価を行います。その結果を総合的に判断し、最良の行動方針を選定します。X社との関係維持および開発コスト、納期、品質、手戻り防止、資源の最適化を図ることを重視した結果、C案(O-3:折衷交渉)を最良の行動方針と判断しました。
5.結論
比較検討の結果、X社との関係維持に努めつつ、開発コスト、納期、品質への影響を最小限に抑え、手戻り防止と資源の最適化を目指すため、X社との交渉を継続して妥協案を探ることにします。
上記の結論を踏まえると、リーダーであるあなたが社長に進言し、社長が決心すべき事項は、「X社との交渉を早急に実施し、わが社の損失を最小限に抑えて本プロジェクトの完遂を図ること」だといえます。この意志決定がなされることで、プロジェクトリーダーであるあなたをはじめ、各部門が一貫した方針のもとで計画を策定し、X社との調整に臨むことが可能となります。
以上、日頃から私が述べている「状況判断(任務分析、状況および行動方針の検討・分析・比較、結論)」の一例を示しました。 限られた情報の中での検討であり、要を得ていない点もあるかとは存じますが、重要かつ困難な課題に遭遇した場合の問題解決の参考となれば幸いです。
プロジェクトリーダーであるあなたが現状を分析し、社長の意志決定(決心)を引き出すことができれば、事態は解決に向けて力強く前進するはずです。今回の問題の本質は、社長が明確な意志決定を避けている点にあります。「良きに計らえ」という曖昧な指示では、組織として一貫した行動は取れません。
ここで私が強調したいのは、状況判断を行い、結論を導き、決心をしたら終わりではないということです。次に行うべきは、その決心に基づいた「具体的な計画策定」です。計画が整って初めて、それに基づいてX社との交渉へと進むことができます。
プロジェクトリーダーであるあなたの役割は極めて重要です。本稿が少しでも参考になれば幸いですが、リーダーとして考えを整理し、打開策を見出すためにも、ぜひこの「状況判断の思考過程」を活用してください。
なお、今回の解説では「決心に基づく計画策定」の具体的な内容については触れていません。計画を練り上げることもプロジェクトリーダーの重要な職務ですが、今回はまず、解決の糸口を見出すための「状況判断」に重点を置いて解説しました。
今回のまとめ
- 困難な問題に遭遇した時は、まず状況を整理し、課題を明確にする
- 相反する意見の中で最良の案を導き出すために、「状況判断の思考過程」を指針とする
- 物事を解決するためには、リーダー(社長)による明確な意志決定が不可欠である
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回答者: 呑田好文
元陸上自衛隊レンジャー教官。2002年退官(陸将補)
2018年よりアメリス顧問。2024年2月より同取締役。サロン・ド・アメリス講師。
一年で最も寒い時期ですが、皆様におかれましては、健やかにお過ごしのことと存じます。 厳しい寒さの中でも、ふとした瞬間に春の訪れを感じるような、小さな変化や兆しを発見できるはずです。どのような困難な状況にあっても、常に明るい兆しや希望を見出し、力強く前進し続ける人でありたいと願っています。ともに頑張りましょう!
次回お悩み予告
2026-02-16UP予定
「この忙しい時期にBCP訓練って意味ありますか?」と言う若者に上手く説明できません…
