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Amelys Journal

「運用病」を患う日本企業を変革する!
成長企業トップたちの徹底対談

  • 2023-01-30
  • スペシャル対談

多くの経営者を悩ませる組織運営や人材の問題。今、勢いのある企業のトップは、いかに組織の課題を見出し、会社を成長させる体制を構築しているのだろうか。設立10年未満、今後さらなる規模拡大を目指す若き成長企業「株式会社イメジン」松木友範氏と「アメリス株式会社」橘高康朗のトップ2人が、日本社会や停滞している組織の課題、そして多くの危機を経験してきた日本企業にとっての今あるべき組織体制、会社の将来像まで幅広く語った。会議室でのセッションに始まり、後半、会食の場にまで及ぶトータル約3時間の白熱討論。

プロフィール

右: 株式会社イメジン 代表取締役CEO 松木友範氏
左: アメリス株式会社 代表取締役社長 橘高康朗

1日本企業の疲弊の原因は
「運用人材」中心の体制にある

橘高
今日は、新しい組織の形を実現しながら事業を成長させているイメジンの松木さんと、日本社会の現状や、組織のあり方についてお話したいと思っています。
松木
よろしくお願いいたします。
橘高
日々事業を回している中で感じるのは、運用人材中心の組織体制が抱える限界です。企業は、経営方針を決定する「経営人材」、その方針に則って具体的な業務や商品を企画する「企画人材」、その企画を誰がどのようなルールでどうやって実行するのかを設計する「構築人材」、そして実際にその業務を行う「運用人材」で構成されています。日本では今、下のピラミッドのような、多くの企業が運用人材中心の体制を敷いていると感じています。業務に適切に対応できる運用人材は組織には必要ですが、経営人材と、業務の企画・構築ができるわずかな人材、そしてそれ以外の多くの運用人材で業務を行っている会社は、ルールや社会の変化に、社員の個別最適、つまり人手でなんとか対応している状況にあります。そのようなケースでは、個別対応する人材が抜けると組織が破綻します。

図版:「運用人材中心の体制」のピラミッド

松木
確かにそういう企業は多いですね。当社も当てはまるかもしれません(笑)。
橘高
ビジネスには創成期、事業拡大期、安定運用期があり、安定運用期に移行するためには組織の仕組化が欠かせません。あるべき組織運営体制とは、左のピラミッドのような仕組です。経営層の決心(経営方針の決定)がなされたのち、企画→構築→運用の順番でビジネスが回ります。業務の分量と必要な人材の数も、およそこのピラミッドの通りです。

図版:左側に「あるべき仕組」のピラミッド、右側に「仕組を実現する人的基盤」のピラミッド

橘高
アメリスは、プロセスを整備することで組織を仕組化するお手伝いをしているのですが、お客様から聞かれるのは、企画・構築ができる人材が足りないということ。現状では多くの企業が、以下の図のように、十分に構築しきらずに、経営層が決めたら即、運用に移っています。これでは組織はうまく回らず、様々な負担が、運用の現場にのしかかります。過剰な残業や離職率の問題の原因はここなのです。

図版:「仕組の現状」のピラミッド

橘高
このような現状となっている背景には、日本社会が事業拡大やルールチェンジに対応しきれなかった背景があります。この20~30年間、企業は、新規事業や海外展開、統廃合による事業拡大をしながら、コンプライアンスや内部統制の必要性、IT化などの変化に対応する必要がありました。
私が社会人となった1998年には、コンプライアンス、四半期決算、PC管理や情報セキュリティ等の業務は殆どありませんでしたものね。
これら増えた業務を、企業は人員の補強やシステム化で対応してきたものの、それぞれ個別に対応してきました。結果、業務の仕組化が進まず、今になって全体がどうなっているのか、社内でわかる人がいなくなってしまっているというのが現状かと思います。
松木
確かに。でも時代を振りかえると変化のチャンスは何度もあったように思いますね。
橘高
そうなんです。エンロン・ショックや東日本大震災、リーマンショック、コロナショックなど、さまざまな危機の対応に追われて全体最適どころではなかったとは思いますが、危機こそ、変化の節目ですよね。これからの日本も、今のこのコロナ危機の終盤から、「ポスト危機対応」をふまえて業務基盤を強化していけば、決心→企画→構築→運用のサイクルが回る組織を作れると思うのです。
松木
ただ、この仕組を支える企画・構築人材が不足しているということですね。
橘高
そうなんです。なので今から急いで育てなければなりません。

図版:時代背景の年表

2「企画・構築人材」を育てるには

橘高
日本企業では、業務を仕組化したり、リストラクチャリングできる「構築人材」や「企画人材」が育っていません。そしてその人材は、企画・構築を実際に経験させないと育ちません。スポーツが、教室でやり方だけ学んでも上手くならないのと同じです。また、他社から企画・構築の実績がある人を連れてきたとしても、自社の運用や文化をひと通り経験してみないと、なかなか企画・構築はできないものです。“言葉”が違ったりしますからね。
一方で、その素質を持つ社員がいても、彼らに運用業務を任せるばかりで育てようとしない管理職も多いです。とにかく運用が回ればいいと思っている運用管理職や、企業トップまでも“業務が回ること”だけを考えている運用社長はたくさんいる。そういうリーダーによる、運用支配が日本に蔓延しているように思うのです。
松木
運用のほうがリスクが少ないから、そちらをやりたがる人たちも多い気もします。
橘高
そう。でも組織の全員が運用に回ってしまうと、とてつもなく大きなリスクになってしまいます。もちろん組織にとって運用業務は大事ですし、必要な人員の数も運用の方が大きいです。しかし組織には、少なくとも10人に1人か2人は必ず企画・構築人材は必要です。外部環境がこれだけ大きく変わっている現代ではなおのことです。
松木
企画・構築は難易度が高いかもしれないですけど、それができるほうが待遇も上がりますしね。特に若い人たちには、企画・構築人材を目指してほしいです。
橘高
とはいえ、企画・構築人材はすぐに育つわけではありません。経営層の皆さんには、2、3年という視点ではなく、中長期的な目線で育成や育成や組織作りを考えてほしいですね。

3これからのリーダーに必要な「決心」とは?

橘高
イメジンでは「主的企業統治」を目指しているとのことですが、具体的にどのような組織運営なのでしょうか?
松木
私を含む役員の報酬は社員の投票で決める、給与はお互いに公開されているなど、民主的な仕組みをとっています。オフィスもなく、勤務時間や働く場所、働き方に関しては一切問いません。多様な事情を持つ個人が活躍できる体制をとっているんです。ただ、その体制は前提であり、民主的企業統治は、企業としての経済性も重視した仕組みです。政治学で、独裁の政治体制より民主的な政治体制の方が長期的な経済パフォーマンスがいいという研究結果があるんですね。企業というのはその存在自体が独裁と言えるのですが、独裁ではない民主的な企業の形があり得るのではないかと模索しているところです。
橘高
イェール大学の学生便覧の1ページ目には、この大学は、民主主義に必要な人材を育てるためにあると書いてあると聞いたことがあります。民主主義においては、ひとりひとりが自分で考え、自分で決断できなければいけないと。本大学はその為の教養を学ぶところだと。
松木
そうなんですよね。だから、私たちは多数決をしたくて民主主義をとっているのではなくて、自分の行き先は自分で決めよう、ということを掲げているんです。それを当社では「決心」という言葉で表現しています。ひとりひとりの決心を尊重するんですけど、それは逆に言うと「決心しなさい」ということ。投票をするのも同じで、自分が働く会社の行き先は自分たちで決める、ということなんですね。
橘高
先ほどの人材構成ピラミッドでいうと、「決心」のところが欠けている会社も結構ありますね。決心は、決定とは違います。決定は運用としてのひとつの手続き。決心は「やる」ということを自分の腹で決めることです。決定の手前に、決心があれば揺らぎません。決心をせず、決定手続きだけをしている運用リーダーも実は多いです。リーダーではなくても、決心をする訓練を日々積むことで、企画・構築の力が身に付きます。起案の決心、提案の決心、報告の決心、すべてにおいて、決心が重要だと思います。
松木
決心の感覚は、会社を経営し始めてからいっそう強く感じますね。

4組織を動かす処方箋:
「部下は絶対に言うことを聞いてくれない」と心得る

松木
経営といえば、最近、組織を動かすときのアプローチについて考えることがあって。たとえば、組織を動かしてみんなで何かを遂行しなければいけないとき、社員にアプローチする方法はいくつかありますよね。押すのか、押さずに対応するのかがあって、方法によってはパワハラと受け取られてしまうこともありますが、まったく押さないのが正解とも限らない。押すタイミングや強さ、押し方を考慮することが大事だなと感じます。
橘高
武道では、「先の先」「後の先」という戦い方がある。先の先というのは先に先手を打つ、後の先というのは、相手が突いてくるのを待ってから打つ。そのどちらを取るかは状況判断ですから、経営におけるその技と似ています。何のためにこれをやるのだ、という「決心」に沿った行動なのか、それとも単なる個人的な感情による行動なのかで、相手の受け取り方も変わりますよね。
松木
それに近い話題で言うと、管理職になった社員に私がいつも言っていることは、「部下は絶対に言うことを聞いてくれないと心得よ」、ということ。リーダーになるとつい、チームのメンバーは自分の思い通りにやってくれると思ってしまうじゃないですか。「言うことを聞いてくれない」というのは、拒否されるということではなくて、相手が誤解して違うことをやってしまうとか、リーダーが思っているほどのスキルがなくてできないとか、いろいろなレンジがあって。
橘高
指示の出し方が悪いとか。私のことですが……(笑)しかし意図を完璧に理解してもらえることはまずありませんからね。理解のズレがある上で、相手は自分ができることに変換して仕事を進めますから、リーダーが期待する成果と離れてしまう。想像していないものを生むイノベーションも大事ですが、「これをやらなきゃいけない」というときには困ります(笑)。
松木
難しいですよね。リーダーはそういう心構えを持っていれば、思った通りにことが進まなくてもショックを受けなくて済みます。ですから、ネガティブになってほしいわけではなく、ワクチンのつもりでそれを伝えていますね。

5構築力はチャレンジの結果でしか、身につかない

橘高
私は、母校のヨット部の運営に約25年間携わっているのですが、2年前に33年ぶりの全日本出場を果たしたんです。当時、周囲にはまぐれと思われたと思うのですが、なんと今年、また全日本に行ってくれたんです。これでもう、まぐれとは言わせません。25年間かけて、コツコツ、コツコツと人と組織を育ててきて、ようやく変曲点を超えたんです。長かったぁ……
全日本での実績はまだまだこれからですが、でもずっと長い間チャレンジし続けているので、若いOBOGの中に、構築力を兼ね備えた素晴らしい人材が複数名育ってきました。彼らのお陰で先を見通すことができ、ワクワクしています。
この活動をしていると、構築力というものは、学生達がOBOGはじめ様々な大人達を巻き込みながら、創意と工夫を凝らし、失敗と成功を何度も繰り返しながらも、目標に向かってチャレンジし続けた結果、数年かけて身に着いていくのだという事がわかります。これは学校の授業だけではなかなか身に付けられない、部活動ならではの価値だと思っています。
松木
部活動も、企画と構築の力がなければ前に進めませんからね。部員の方々に、うちの会社のインターンに来てもらいたいぐらいです(笑)。
橘高
ヨット部でも10年、20年かければ、こうして構築人財を生み出し、成果もあげることができているのですから、日本企業も同様に、10年、20年、企画・構築人材の育成を続ければ、必ず変われるはずです。

6滅びゆくファンタジーを嘆かずに
新しいファンタジーを作る

橘高
日本社会や教育の限界について語る文脈で印象的だったのが、ある番組で堀江貴文さんが『サピエンス全史』(ユヴァル・ノア・ハラリ著)の話題で「国家はファンタジーだ」と話していたことです。国家はフランス革命でできあがったファンタジーであり、学校教育は国家というファンタジーを堅牢に維持するために作られたシステムだと。グローバル化によって国家のファンタジーが崩れているのに、それに基づく教育を受ける必要があるのか、という話をしていました。子どもたちの世代にとっては、一生懸命勉強して名のある大学に行くというファンタジーも崩れてきています。運用に支配された大企業に入ることも、二、三世代下には、古いファンタジーに映るのではないでしょうか。
松木
日本社会が信じてきたものが崩れている中で、橘高さんは経営を通して、組織のあり方や日本全体に、どう影響を与えていきたいと思っていますか?
橘高
私は、運用支配のパラダイムを壊したいと思っています。ファンタジーをただ非難するのではなく、新しいファンタジーを作りたいですね。ファンタジーの夢から覚めて終わりでは寂しいですから。
松木
新しい物語を作っていくということですね。
橘高
古いファンタジーはバカらしいよねと言って何もしないのは、運用どころか虚無ですから。創造的な人間として生まれた以上、ファンタジーを作り上げる道にチャレンジすべきと思います。それには、10年、20年という長期的な視点と覚悟をもって、組織づくり、人づくりに取り組むことです。アメリスとしても、新しい世界観を作ることで、日本にムーブメントを起こしたいですね。そういう意味ではイメジンはすでに、ユニークな形で新しいファンタジーを作り始めていますよね。
松木
確かに、民主的な統治というのは企業の新しいファンタジーですよね。それをイメジンはホームページで「会社革命」と表現しているのですが、会社のあり方を変えたいんです。イメジンは、経営陣や株主ではなく、関わる人すべて、広い意味でのステークホルダーの会社であると。特にイメジンは従業員を重視していて、会社のあり方そのものを、トップダウンではなく、ボトムアップで決めたいんです。その前提として、個人個人が世界に貢献するという意思によって成立する組織を作れたら、すごくいいなと思っていて。理想と現状はまだまだギャップがありますが、それを200人や2000人規模で成立させることができたら、組織として非常に強いと思いますので、そういう形を目指しています。
橘高
本日はどうもありがとうございました。
松木
ありがとうございました。
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