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Amelys Journal

国も会社も最大の資源は「人」。
デンマークに学ぶ幸せな組織作り

  • 2023-12-29
  • スペシャル対談

組織作りや人材育成に有効な考え方は、各国の民主化の歴史からも学ぶことができる。中でも私たち日本人や日本企業が自らの進む道を考える上で知っておきたいのが、幸福の国・デンマークのデモクラシー(民主主義)や社会のあり方だ。
また、経済産業省より公表された「人材版伊藤レポート2.0」が注目を集めたように、日本企業における「人的資本経営」への関心も高まり、取り組みを始めている。

そこでアメリスは、人事のスペシャリストたちを招き、日本とデンマークの架け橋としての発信活動を続け、今年『デンマークにみる普段着のデモクラシー』(澤渡夏代ブラント氏との共著)を上梓した小島ブンゴード孝子氏にお話を聞く勉強会を開催。「仕事の見える化」で幸せな働き方の実現を支援してきたアメリスの橘高康朗社長が、小島ブンゴード孝子さんに、デンマークの民主主義、そして組織の最重要リソースである「人」への考え方について、話を聞いた。

プロフィール

右: 小島ブンゴード孝子氏

東京生まれ、学習院大学卒業、デンマーク人ブンゴード氏と結婚。2女の母。在デンマーク日本大使館や日本関連企業勤務を経て、1983年にユーロ・ジャパン・コミュニケーション社を設立し、通訳・翻訳、日本人向け研修・講演を企画実施。元佐久大学信州短期大学部特任教授。

著書
デンマークにみる普段着のデモクラシー(共著: 澤渡夏代ブラント氏)
デンマークの女性が輝いているわけ:幸福先進国の社会づくり(共著: 澤渡夏代ブラント氏)
他多数

左: アメリス株式会社 代表取締役社長 橘高康朗

1社会のすみずみにデモクラシーが根付くデンマーク

橘高
アメリスは「見える化で仕事を楽しくする!」という理念を持っています。この「楽しい」とは、自分で考えて判断すること。仕事を楽しくすることで、企業の中でひとりひとりが輝けると考えています。そして、自分で考え判断するというのは、民主主義の前提条件です。そういうことを考えていたところ、小島ブンゴード孝子さんの書籍『デンマークにみる普段着のデモクラシー』に出会い、詳しくお話を聞きたいということで、今回、お時間をいただきました。本日は、よろしくお願いいたします。
小島
よろしくお願いいたします。私が、デンマークの男性と結婚してデンマークに暮らして50年が経ちます。デモクラシーというとすごく堅苦しく聞こえてしまうかもしれませんが、半世紀、デンマークで仕事や子育てをしてきた中で感じるのは、デンマークの社会では、どこを切ってもデモクラシーが出てくること。福祉も医療も教育も、そして子育ても働き方も、すべてにデモクラシーが息づいているんです。
橘高
そもそも、デモクラシーに対する考え方は、デンマークと日本では違いますよね。
小島
デモクラシーは日本語では民主主義と言いますが、私はあまりこの言葉は使いたくないんですね。デモクラシーの語源は、古代ギリシア語の「デモクラティア」で、デモス(民)とクラトス(力)の合体語です。直訳すれば、民権、つまり人民が遂行するという意味です。その点、デンマークはその考え方に似たものを持っていると思います。

2幸福な国・デンマークの今

橘高
デンマークというのは、どういう国なのでしょうか。
小島
デンマークはスカンジナビア3国のひとつで、EUにもNATO(北大西洋条約機構)にも加盟しています。人口は590万で北海道とほぼ同じで、面積は九州より少し大きい。北海道が日本から独立したと考えるとわかりやすいです。デンマークには、ヨーロッパ最古の王室があります。政治はというと、以前は二院制でしたけれども、現在は一院制で、議員は179名。現在の首相は46歳、女性のメッテ・フレデリクセン。前回の総選挙の投票率は、84.2パーセントでした。
以前は社会民主党の単独だったのですが、首相がどうしても連立内閣を作りたいということで、時間をかけて話し合いをして、三党連立内閣が成立しました。議員の平均年齢は43歳。最年長は75歳の女性ですが、70代は1人で、20代が14人、最年少は21歳です。
橘高
平均年齢43歳というのは、日本の政治家のイメージからすると驚きです。
小島
それくらいの年代は一番、やる気もあるし、エネルギーもあります。そういう人たちに国の運営は任せて、私たち70代の者は彼らの後押しをする側に回っていますね。
橘高
デンマークは、人口や面積が小さいものの、国際的には存在感が大きいですよね。
小島
国際的なランキングを見ても、GDPは日本は3位でデンマークは38位ですが、ひとりあたりのGDPはデンマークは世界9位で、31位の日本よりも断然、高いです。世界幸福度ランキングも、デンマークは2位、日本は47位。社会の透明度を示す腐敗認識指数や、国際経営開発研究所の国際競争力ランキング、環境パフォーマンス指数もデンマークは1位です。北海道より小さな国が、重要なランキングでトップです。だから私はよく、デンマークは「小さいけど大きい国」という表現をしています。

3デンマーク最大の資本「人」を活かすための教育

橘高
日本とデンマークは幸福度の差が大きいことも気になりますが、なぜ、デンマークの人は幸福度が高いのでしょうか。
小島
デンマークが「人」を大切にしているからだと思います。デンマークは面積も狭いし、天然資源も少ない。では何が重要なリソースかというと、人なんですね。こんな小さな国が世界で存在感を発揮するには、人的資源のレベルアップしか道がないんです。それはどんな方法かというと、教育です。
橘高
デンマークは、公立校は大学まで授業料が無料だそうですね。
小島
学びたい人が誰でも学べるよう、教育は公共サービスです。私は日本の大学を出た直後にデンマークに移り、デンマークで子育てをして、今は孫を見守っていますが、日本とデンマークで何が一番違うかというと、教育です。
デンマークの人にとって、どこの大学を出たかは関心がありません。会社に入る時には、今まで何を勉強してきて、何ができるのか、何をしたいのかを聞かれます。子どもの頃から、小学校、中学校とずっと、自分が何をしたいのかを考えさせられるんです。
すると若いうちから、やりたいことが形を成していきます。だから、たとえば美容師になるなら、美容の学校に行って資格を取ればいいし、介護の仕事をしたいのなら介護を学べばいい。高校に行く必要もありません。今、デンマークは高校への進学率が約75%に上がっているのですが、デンマークの文科大臣はそれを「行く理由もなく高校に行く子どもが増えてはいけない」と危惧しています。デンマークは学費は国から出ていますから、やりたい仕事につながる勉強をしてもらわないと困るわけです。
橘高
学校では成績表もないんですよね。
小島
そうです。自分の子どもがどのくらいできるのかわからないから、私も最初は戸惑って、先生にクレームを言いました(笑)。でも、他の人と比べようとするのは日本の考え方で、デンマークはそうではありません。成績表を見ると、子どもがクラスで何番かではなく、たとえば、「今期は前の時期に比べると、数学をよくがんばりました。そして、忘れ物が多いです」と書いてあります。つまり、他人との比較ではなく、その子自身を見ているんですね。
〇〇ちゃんはここが長所、でもここがちょっと弱い。優れているところは伸ばして、ここはもうちょっとがんばろうね、という評価です。だから先生は大変です。ひとりひとりの長所と短所を見極めて、アドバイスしなければいけませんから。
橘高
教育を充実させて活躍できる人材を育てることは、国民が自分たちで考えることができて、彼らと対話をして合意を目指すという、デンマークのデモクラシーとも密接に結びついていると感じますね。
小島
そうですね。デンマークは、働きやすさにもこだわっています。男性だけが働くのはもったいないですから、男女ともに働きます。女性が働きにくいから働かないなんて、国の大きな損失です。家庭内のことは社会がカバーするから、男女ともに働きましょう、というのがデンマークの考え方です。
日本は、教育費がかかるからと夫婦が2人目、3人目をためらうと言いますが、デンマークは教育費や医療費がかかりませんから、お金のことで子どもを諦める必要はありません。保育園も充実していて保育料の補助も受けられますから、子どもが3人、4人、5人いても仕事はできます。そういうシステムを作らなければ、優れた人材もフルに活用できません。働いているから子育てできない、なんてとんでもない。合計特殊出生率は、デンマークのような共働き社会が多い国のほうが高いんですよ。そう考えると、日本の少子化の問題は根が深いですね。
橘高
その結果が、デンマークの人口が増え続けていることにも表れていますよね。
小島
ただ、医療や福祉という人間が生きていくために大切なものはすべて公共サービスですが、その費用はみんなで負担します。所得税は平均して収入の45%。消費税は25%、お酒代は9割が税金ですし、車の税金は180%です。
参加者
税金が高いことや公共サービスに、国民は満足しているのでしょうか?
小島
満足しているかというと難しいですが、納得はしています。高収入の方は税率が高いですから、支払った分の恩恵を受けられるとは限りません。必要なところに税金は使われますから。それでも、教育が無料で、病気になっても安心して医療が受けられる、それが一番いいと考えているのだと思います。
10年ほど前に、面白いことがありました。前の前の内閣が、税金を下げる(=実質、公共サービスの更なる合理化)という政策を掲げたんです。そうしたら、市民が猛反発しました。特に、小さいお子さんがいる方々がベビーカーを押して国会の前に集まって「税金を下げるな」というデモをしました。税金は高くていいから、満足できるような公共サービスを提供してくれと。税金を下げると言ってデモが起こるなんて、日本ではあり得ないですよね。

4デンマークが「小さいけど大きな国」である理由

参加者
日本における民主主義というと、「多数決」や「平等」という言葉が思い浮かびますが、デンマークのデモクラシーはそうではなく、議論の上で合意を目指すということですね。
小島
そうですね。ある哲学者の方に教わったのですが、デンマークの政治は、少数派の意見をどれだけ社会に反映できるかが勝負だそうです。だから、デンマークでは多数決は暴力に等しい。もちろん、どうしても決まらない場合は多数決はします。ただその前に、とにかく対話をします。だから、合意には時間がかかります。
教育でも多様性が重視されます。たとえば、小学校のクラスメイトは全員、性格もバックグラウンドも違い、その人たちの数だけ、多様性があります。たとえば、その多様性に対してすべて同じ教育をするのが、平等でしょうか。
橘高
日本なら、同じ教育を施さないと不平等だと言われてしまいますね。
小島
性格も得意なこともまったく違ったとしても、一郎くんにドリルの課題を出して花子ちゃんに出さなければ、不公平だって怒られますよね。デンマークは、みんな違うんだから、ひとりひとりに合った教育をするのが平等だと考えます。平等の観念が、まったく違いますよね。
以前、私の義理の母が介護付き住宅に入居していました。彼女はいくつかの年金収入がありましたが、お隣に入居した方は、国民年金しか受け取っていませんでした。家賃はどうなるかというと、たとえば、お隣さんは母の半分になります。これを不公平だと考えるか、ということですよね。母は、「手取りは私の方が多いのだから、私のほうが多く払うのは当然よ」と言っていました。
参加者
日本とデンマークの政治の何が違うかというと、政治に対する信頼感だと感じました。
小島
ある学者さんが、他人を信頼して、自分のいろいろなものを託せるかどうかが幸せにつながっていると言っているんですね。デンマーク人はのんきなのかもしれませんが、まさにそれです。たとえば、我が家は自宅兼オフィスなのですが、近所の人から「しばらく家をあけるから、鍵を預かって」と言われることが多くて。夏休みには、10個ぐらい鍵を預かったこともありました(笑)。
橘高
国を信頼しているから、自分たちのお金を預けられるわけですね。デンマークは、公共サービスなどのデジタル化も進む、デジタル先進国でもありますよね。
小島
日本でも今、デジタル化を急ぐべきだと言われ始めていますよね。デジタル庁を作ったりして頑張っていますが、世界デジタル政府ランキングでも、デンマークは1位です。デンマークは1968年に市民登録法によって個人番号が導入されるなど、かなり前からデジタル化に取り組んできました。
橘高
日本はコロナ禍にやっと、デジタル化の遅れに気付いて焦っていますが、デンマークは、将来を見据えた意思決定もできているんですね。

5人材が幸せに働ける民主的な組織とは?

橘高
ブンゴードさんのお話をうかがっていると、デンマークは国民として何をゴールに持って行くかという設定がしっかりできていて、その合意がとれているからこそ、人々の幸福度が高い。それが、デモクラシーが根付いている、ということですね。
小島
日本にもデモクラシーがあり、アメリカにもデモクラシーがあって、北朝鮮のような独裁国家だって、自分たち流のデモクラシーがあると言っています。何が正しいということはないのですが、これらはすべて同じものではないと私は思います。
橘高
日本からすると思い切った政策に感じることもありますが、それにはリーダーによる意思決定が必要ですよね。デンマークの場合は、独裁国家のような国民を無視した決定ではなく、合意のもとで決定がなされるからこそ、国民は納得しているわけですね。
参加者
私は仕事上、船舶業界と関りがあるのですが、デンマークには、税金面で優遇されている企業もありますよね。それに関しては、国内で議論はないのでしょうか。
小島
国際的に競争力を持つ企業の税率を下げるのは不公平じゃないかという考え方もありますが、デンマークの政治は、どの業界の企業が世界で勝ち抜いていけるか、プライオリティーをつけているんです。強い企業が多くの税金を支払って成長できなければ国としても損失が大きいですから、それは独裁ではないんですよね。税金面で優遇されているある企業は、得た収益を環境エネルギーに投資しています。それは、デンマークや世界の環境にも寄与しますから、国民にも認められているのだと思います。
橘高
そういった政策を可能にするのが、リーダーの若さや対話なんですね。そういう意味でも、我々日本が今後、どこに向かっていくのかというコンセンサスがとれていない状態は、危ういなと思います。
小島
私はどの国がいいとかダメとかは言いませんが、デンマークのデモクラシーのあり方や、女性がどういうふうに生きているかを知れば、日本で暮らす日本の方たちは、違いを感じてもらえると思います。私の話が、では、自分たちはどうすればいいのか?ということを考えるきっかけになれば嬉しいですね。
橘高
そうしたデモクラシーの考え方は、組織でも援用できますね。会社のあり方や働き方に合意がとれているということが、幸せに働くということだと思います。
小島
国も地域も、学校も、ひとつの会社でもそうです。日本の政府や企業の経営者、そして国民ひとりひとりが、共同体としてどうありたいのか、そしてリーダーにこうしてほしいと伝えているかというと、私はすごく曖昧だと思います。
橘高
高度経済成長期の価値観のまま変われない日本や日本の組織は、デンマークから学ぶことが大きいですね。ただ、デンマークの政策や公共サービスを真似すればいいわけではなくて。自分たちで考えたゴール設定が必要ですよね。これから人的資本を会社の資産として捉えていくという大きな流れがある中、今日のお話で、企業が動くことで、日本を変えるための壁を突破できるのではないかと思いました。
小島
小さな企業であっても、何千人、何万人規模の企業であっても、人的資本は、クラスの生徒ひとりひとりと同じ。経営者や人事部の方は、この人の良さをどう引き出したらいいのかを考えて、その方に適した、本人が納得できる役割を、よく話し合った上で決めていく。それが、国や企業における人的資本を考える上で大切だと思いますね。
橘高
本日は、ありがとうございました。
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