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Amelys Journal

アイディアだけでは価値はない
――組織を強くする「業務構築」と
「体験」とは?

  • 2023-05-08
  • スペシャル対談

レジャーやものづくり、グルメなどの体験ギフトを提供するソウ・エクスペリエンス株式会社。イギリスの文化に着想を得てそれまで日本になかった事業で起業した西村琢社長は、その意思を具現化する組織やオペレーションをゼロから作り上げた。プロセス作りの体験によって組織を強くするアメリス株式会社とは、「体験」を重視する点で共通する。新ビジネスを立ち上げ、トップランナーとして業界をけん引するソウ・エクスペリエンスの西村琢社長と、アメリスの橘高康朗社長が、組織作りや人材に対する考え方など、ビジネスの根幹を語り合った。

プロフィール

左: ソウ・エクスペリエンス株式会社 代表取締役社長 西村琢氏

1981年生まれ。慶応義塾大学在学中にパナソニックの学生向けビジネスプランコンテストで優勝。出資を受けて起業する権利を得たが、2005年に自力でソウ・エクスペリエンス株式会社を設立。同社はテレビ東京「カンブリア宮殿」や、朝日新聞、日本経済新聞等の各種メディアで取り上げられるなど、注目を集めている。

右: アメリス株式会社 代表取締役社長 橘高康朗

1なぜ、「アイディアだけでは無価値」なのか?

橘高
最近、お客様との会話で特に盛り上がるのが、ビジネスやプロセスを作り上げる「構築人材」がいないというお話です。部長や社長まで運用に回っている会社もあり、数少ない構築人材が去るとさらに人材難が進むという状況も生まれています。
そんな会社と対極にいるのが、ソウ・エクスペリエンスだと思います。本社のオペレーションルームを見せてもらうと、西村さんがゼロからビジネスを構築してきたことがよくわかります。西村さんは、ソウ・エクスペリエンスの成功を象徴するあの空間を、どう構築したんですか?
西村
あれは気づいたら全部、できていたんですよ。
橘高
かっこいいですね(笑)。私たちが行っている業務改革でいうと、組織作りに欠かせない3つの要素があって。トップが掲げる目標とチーム編成、そして業務基盤の整備です。この3つが揃うと、今の西村さんの「気づいたらできていたんです」という名言が生まれるわけですね(笑)。
西村
本当にそうだと思いますよ。
橘高
それを自然体でてきているんでしょうね。西村さんの言葉で印象的だったのが、「アイディアだけでは価値はない」ということ。体験ギフトはイギリスのビジネスにヒントを得たわけですし、今、日本でも体験ギフトを手がける会社はいくつもあります。でも西村さんは起業当初から、真似する、されることに関しては気にしていなかった。自分で事業を構築してきたから自社の独自性に自信があり、真似されるのは怖くない。だから「これは真似されそうだ」とか考えて迷うより、1日でも早くやり始めたほうがいいんだとおっしゃっていましたね。
西村
実行の過程で、ビジネスを成立させるためのオペレーションの連携も進みますから。マクドナルドだって、僕らが当たり前のように食べているハンバーガーの裏側に、とてつもない数のオペレーションと独自のノウハウがあります。サービスを提供する中でお客さんのリアクションを通じた学びがあり、それを踏まえた新しいオペレーションの構築が生まれる。その過程は他社から見えません。だから表層を真似るだけでは、張りぼて以上のものにはならないんです。
橘高
ヤマト運輸の経営者の小倉昌男さんが著書で、それまで宅配便は儲からないと言われていたのに、ヤマト運輸が黒字化したとたん都内のトラックにいろいろな動物のキャラクターが描かれたと書いていますが、それと同じですよね。

西村
よほど世の中に劇的な変化があって、それに基づいた戦略をとるとかそういうことがない限り、後発が勝てる可能性は低いですよね。ビジネスの経験がある人たちが10人、20人で数年間、構築を重ねたら、相当いろんな知見が溜まります。それを後から追い越すには、明確な理由がないと無理です。
橘高
技術なら真似できるかもしれませんが、オペレーションや組織活動は真似できないですからね。
西村
「アイディアだけでは無価値」と僕が言っているのは、そういうことです。アイディアをどう作っていくか、どう形にしていくかに、ビジネスのすべてが詰まっている。

2ソウ・エクスペリエンスの価値を
生み出す強い組織作りとは

橘高
西村さんは社内でのコミュニケーションは、どのようにとられているんですか?
西村
僕が大事にしているのは、会議体です。マネージャーが率いる8個のチームによる会議体が運営されていて、それぞれに僕を含む3人の役員が関わっています。僕は3、4チームの会議体の動きを把握していますが、必要に応じて細かいところまで入ります。あとは代表として全体を見ながら、企画したことが実行できているか、にらみをきかせています(笑)。
もうひとつ、以前、1万人規模の会社の代表だった方が役員を務めてくれたことがあって、彼の教えで、忠実に守っていることがあります。それは、「上からの指示はレポートラインに従って下ろし、メンバーからの意見や通報はレポートラインに関わらず上がってくるカルチャーを作ろう」ということ。問題がすぐに上がってくると早い段階で把握・対処ができますから、下からの問題の報告は良いことだという文化を浸透させるように努めています
橘高
やっぱり、組織設計が大事ですね。ビジネスは、企業理念を商品やサービスに変えてお客様に届けることで、誰よりも良いものを届けるか、誰よりも効率よく届けるか、もしくはその両方かのどれかしかありません。この流れを改善することが、内部統制にもつながります。そういう報告が上がってくる仕組みを作ることも、お客様に対する自社の価値を生むための内部統制プロセスです。
西村
プロセスの構築はそういった筋肉質な組織にするための投資ですよね。その原則に沿って組織を運営してうまくいかないのなら、組織編成自体を変えようという判断もできます。今、僕が一番課題に感じてることは、組織のシステムにどうリソースを分配するかということ。そこをうまく設計しようと考え中です。
橘高
責任の分配も含めて難しいですよね。ただ、既存業務の運用に忙しくてそれを考える時間がないという方が多いです。その部分こそ本当に考えるべきなのに、今までこうだったからと同じ体制・運用を続けてしまう。
西村
そういう意味で僕は、そういうことを考える時間“しか”ないですね。その結果、会社のオペレーションはある程度、順調に回っている気がします。たとえば当社のビジネスでいうと、注文と出荷の繁忙期がずれることがあり、一番忙しいところに合わせてリソースを注ぐとムダが生まれてしまう。それを平準化できるように、複数の業務を担うチームを統一するとか、そういう組織編成は逐一やっています。
橘高
組織そのものを成長させ続けることを、常に繰り返しているんですね。年度で動いている大きい会社だと、1年間それが放置されたりしてしまうこともあります。

3柔軟な組織編成や問題の発見に
つながる「会議体」の存在

西村
僕らがコロナ禍や停滞期の間に試みたことのひとつが、「直化(ちょくか)」でした。これは造語なんですが、チームごとの決定や実行を「直」にしようという取り組みです。
橘高
見える化ではなく、直化なんですね。
西村
そうです。要は、いろんなことをバンバン実行して、成長のボトルネックになるものを解消しようということです。ひとつわかりやすい例を挙げると、年末や母の日などのギフト商戦時期に、多くの出荷を捌ききれないという問題がありました。年末は注文が分散されるんですが、特に母の日は、直前に注文のピークが集中するんです。通常期の限界を超える物量を出荷するための工夫が必要なんですよ。
販売後に特定の施設に予約が集中して、受け入れ側のキャパシティを超えてしまうという問題もありました。到着後5~6ヵ月後の予約が多いとか、人気などのデータはあるんですが、変数が多くて判断が難しい。予約の集中を避けるために、アフタヌーンティの体験をホテルのクッキーセットとして受け取れるようにするなど、都度発生する課題への対処を各チームがやると決めて、それぞれ着手しました。そういうことが、直化によって可能になりました。
橘高
見えない商品を扱うのは本当に難しいですね。
西村
そういう課題が自然に上がってくるので、対処ができています。問題が起きたときに誰がリードする、誰がフォローするのかということは、マネジメント側で決めていることもあれば、自然発生的にメンバーが対処してくれることもありますが、毎回、それを明確にする体制はできていると思います。

橘高
プロセスとしての組織担当表ができあがっているわけですね。そうやって問題がちゃんと上がってきて対処ができる仕組みは、会議体が機能しているからなんでしょう。
西村
そうですね。会議体が回っているからこそ、「最近、この部分のトラブルシューティングの話ばかりしているから組織を変えよう」という気付きもありますし、問題の発見も早いです。
橘高
会議体は、私たちがお客様の支援をする際にも必ずタッチします。中には、会議は意味がないと拒否反応を示す方もいるんですが、この会議体はこれを決めて、そこで吸い上げたものをプロセスにこう反映してという全体マップを示すと、会議体の重要性を理解してくださいます。その組織設計のメリットを知らないので、目の前の会議を無機的にこなすことにとどまっている会社もあると思います。
西村
会議体を回すことが、3ヶ月後や半年後や売り上げ作りやコスト削減にも効いてくるので、僕は相当、会議体を重視していますね。最近の例で言うと、新商品を作るチームの会議体から、受け入れ施設のキャパシティを超えそうだという課題があがりました。一方で、この会議体は新商品を作るチームだからトラブルシューティングばかりしていても意味がない、だから編成を変えようという判断もできました。ただ、会議体が理想的な文化になっているというより、普通のことをしているだけだと思いますよ。
橘高
会議体に加えて、チームの責任もコントロールできているんですね。しかもその編成は、プロセスでガチガチに固めるというより、直化されているからこそ柔軟に組み替えることもできるんでしょうね。
西村
いい時こそ硬直化してしまうんですよね。僕自身、いい時期が続いた間、新しい手を打つことをやめてしまったことがあって。人気があるレストランなんだから味は変えなくていい、というような判断をしていたことを反省しています。変えるのは骨が折れることではありますが、やっていかなければいけないと思っていますね。

4人生も組織にとっても「体験」がすべて

橘高
西村さんは、体験がその人の人生になるとおっしゃっていますが、それは私たちのビジネスにも共通すると思っているんです。どんなに素晴らしい設計やマニュアルを提供したとしても、お客様にプロセスの構築や変化を体験して実感いただかないと意味がない
西村
やっぱり、体験に尽きますよね。僕たちにとって体験は、ユニークなギフト商材として、お客さんが気持ちよく人に贈りたいと思えるものを提供する手段です。ただその前に、「体験をしてもらいたい」という強い思いがベースにあって。僕の気持ちとしては、人生にとって大切なのは体験で、それ以外に何があるのか?という感覚です。人生は、いい体験をしたいという一言に集約されると思うんです。
橘高
他にも大切なものはありますけど、お金も、体験をするために稼ぐわけですものね。
西村
お金が一兆円あっても、なんの体験にも変えられないのなら意味がないですよね。1兆円ただ持っているぐらいなら、そのうちの300円を使ってカフェに行ったほうがいい。人生は、いかに豊かな時間を過ごすかに尽きると思うので、それをギフトとして贈ってほしいということなんです。
橘高
私たちのビジョンは「見える化で仕事を楽しく」ですが、仕事を楽しくすることも体験です。ソウ・エクスペリエンスが体験をギフトで提供するように、私たちは、プロセスを作る体験を届けていると言えますね。お金を払って、プロセスだけを手に入れても仕方がないですから。
西村
自分たちで工夫してプロセスを変えて、その結果、お客さんが喜んでくれて、売り上げが増えて、給与が増えたら、楽しくないはずがないです。
橘高
アメリスとしても、プロセス作り、組織作りの体験を届けることをしていきたいですね。ただその体験は、サーフィン並みに難しいんです(笑)。急にボードに立ってと言ってもできないですから。「楽に波に乗れるところまで連れて行ってよ」と思うかもしれませんが、それでは体験したことになりません。
西村
そうですね。テニスのフェデラー選手も簡単そうにプレーしていますけど、その裏にはものすごい努力があるわけです。
橘高
プロセス作りや組織作りは変化がすぐ現れないので、成果がわかりにくいんですよね。スポーツもそうですが、上達を感じられる閾値があって、ある程度までやり切らないと効果を感じられません。これから労働人口も減ってルールも複雑になっていく中、今のままではどうにもならないことに企業も気付き始めています。構築という体験を通じて、学んでいくしか道はないと改めて思いますね。
今日は、貴重なお話をありがとうございました!
西村
ありがとうございました。
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