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Amelys Journal

未来のために、今変わる。
DXのため、経営層がやるべきこととは?

  • 2023-07-26
  • スペシャル対談

組織改善のひとつとして重要な、プロセス改善やDX導入。多くの経営者が「やらなければ」という危機感を抱きつつ、実行はなかなか難しいのが現状という声もある。今回取材したのは、実際に社内改革を実行した日本リビング保証。役員である城戸美代子氏と、アメリス代表橘高康朗、取締役の長久晶子の3人で社内改革に際し経営層がやるべきことを語った。

プロフィール

中央: 日本リビング保証株式会社 取締役(業務運営本部 本部長) 城戸美代子氏

早稲田大学教育学部卒業後、CBSソニーグループ(現ソニー・ミュージック・エンターテインメント)入社。その後、もしもしホットライン(現りらいあコミュニケーションズ株式会社)入社。多数の大型コンタクトセンター業務構築・運営を担う。2017年9月に取締役就任。

右: アメリス株式会社 代表取締役社長 橘高康朗
左: アメリス株式会社 取締役 長久晶子

1業務拡大に人が追いつかない、労働集約型の課題。

橘高
日本リビング保証様とアメリスは、実は長いお付き合いです。数年前に、プロセス改善のプロジェクトで携わらせていただきました。今回は、さらなる社内のプロセス整備、とくにDX改革を行ったと聞いています。背景や実際の施策について、今日はお話いただきたいと思います。
城戸
大前提の話からしますと、日本リビング保証の中でも特に私が担当する組織は、ほぼ労働集約型の仕事です。対象機器の故障受付や修理の手配を担う、事務業務。人がやる限り、業務が拡大すればするほど働く人の業務量も同じだけ増えていくわけです。この課題は、何年も前から感じていました。
橘高
企業・事業としての成長に、人手が追いつかなくなってしまうんですね。
城戸
まさにそうです。人力対応に限界を感じました。業務量が増えたり、新しい商品が増えたことで業務内容も複雑化しました。
長久
そういった場合、単純に人手が足りなくなるだけでは終わらないことが多いですよね。業務の質を上げる施策や組織内での教育に時間を割けなくなるため、業務が属人化・ブラックボックス化したり、マニュアルを作る時間もなく小手先の対応に追われてしまったりするケースが多くなります。
城戸
そうなんです。ミスやトラブルがあっても、なぜ起きたか、どう改善すべきかが見えないことも課題でした。
橘高
組織内の業務を整理する必要があったんですね。その当時、社内でも課題感は共有されていたのでしょうか?
城戸
課題として認識はされていましたが、「今までのやり方を変えたくない」という現状維持を望む保守的なムードもありました。今までの慣れた仕事のやり方がいいといった声は、抜本的に解決する障壁になっていたと思います。こういった状況の中、アメリスさんにご協力いただきました。
橘高
業務のプロセス整理とシステム開発を実施しました。
城戸
当時はぼんやりとした仮説レベルでしたが、プロセス次第で会社の利益は大きく左右されるのではないかと感じるようになりました。これは抜本的に組織やプロセスを変えたほうがいいと。そこで着手したのが、今回のDXです。

2DX人材に現場を学んでもらうより、
現場人材にITを学んでもらう方が、早い。

長久
DXは、どのようなことから始めましたか?
城戸
まず何をすべきか整理するにあたり、次の3つの課題にフォーカスして考えました。1つ目はシステム人材が不足していること。人材がいないから適切なシステムを開発できないし、開発できないから人が時間と労力をかけて対応することになる。結果、運用が限界になる。負のスパイラルです。
2つ目は先に挙げた課題と通ずるのですが、システムの開発力をもっと上げる必要があったこと。最後に3つめとして、業務の可視化です。マニュアルを細かくつくるよりも先に、組織全体で誰が何をやっているのかを、みんながシンプルに知る必要があると感じました。
橘高
整理した課題を基に、施策を考案・実施されたんですね。
城戸
実行したのは大きく3つです。まず、外部のIT関連の研修を導入しました。同時に、個人のIT学習も推奨。社内のITスキル底上げが目的です。システムの構築に必要な知識とスキルを勉強してもらおうと考えました。
長久
ITやDXに強い人材を外部から採用するのではなく、自社の人材をシステム人材として育成したんですね。
城戸
ITやDXに強い人材を採用しても、結局その人が現場の仕事を熟知していなければ意味がないと考えたからです。現場をわからないままシステムをつくれば意味のないものができてしまうし、現場を1から知ってもらうには時間がかかる。ならば現場スタッフをシステム人材として育てたほうが早いと考えました。
橘高
現場をDXするなら、DXのプロより現場のプロの方がいいという考え方ですね。たしかに、極端に複雑なシステムを望まない限りは、現場を知っていることの方が重要かもしれません。
城戸
そこが実施策の2つ目なのですが、システム構築にノーコード系のツールを導入しました。これを使うとプログラミング言語がわからなくても、要件定義ができればシステムをつくることができます。研修で学んだ人は、すぐにこのツールで社内で使用するシステムをある程度構築できるようになったんです。
橘高
現場にいる人がやると、スピード感を持って実施できるのがポイントですね。必要だと思ったシステムを、すぐに構築できる。

城戸
施策の3つ目として、全体と個人の業務について可視化しました。最初はかなり地道な作業になるのですが、個人で担っている業務・タスクとそれにかけている時間や難易度を洗い出してもらった。これもはやりのノーコード系システムで作ったシステムを活用し、全員に実施してもらっています。
長久
一人ひとりに自分の業務の可視化をやってもらったんですね。そういった場合、粒度や難易度を揃えることが難しいように思います。何をひとつのタスクと考えるかが人によって違ったり、業務の難易度は人によって感じ方が異なったり。
城戸
難易度の調整には、「プランニングポーカー」という手法を使いました。アジャイル開発などで使われる工数計算方法の応用です。感覚ではなく、チーム内で共通の認識をつくることを目指しました。

※プランニングポーカーとは
システム開発の際の見積もり作成のために、作業の複雑性や労力のポイントを算出する方法。1人が見積作成するのではなく、開発に関わるチームメンバーが全員が同時に見積もりを提示し、その後議論を行う。チーム全員で見積もることで、考慮漏れを少なくし、相対的に見積もることで正確さを向上させる。

3現状維持だけは、劣化を意味する。

橘高
3つの施策を実施した成果に関してもお伺いしたいです。
城戸
まず業務の可視化はノーコード系ツールを活用したこともあり、想定よりもかなり簡単に行うことができました。チームで行う業務の全体像と、個人の業務の両方が見えるようになったのは非常によかったと思います。個人の業務の改善点を意識できることはもちろんですが、担当業務の前後工程を意識しながら仕事をすることに繋がったのではないでしょうか。お互いの業務理解が深まり、「プロセスは繋がっているもの」という認識が生まれました。
橘高
みなさんの成長にもつながったんですね。
城戸
そうですね。研修やスキルアップ奨励の結果、社内のシステム人材も増加しました。外部のシステム会社と連携が必要な際も、こちらに知識があるためスムーズになり、全体的なスピードと品質が向上。そうやって着実にできることが増えると、メンバーの自信にもつながっていきました。成果が出ると、自信がついて、より積極的に取り組んでくれるいい循環となった気がします。
長久
メンバーが自信を持ってくれると、自ら課題を見つけたり、新しいアイデアを提案してくれる。組織にもいい影響をもたらすようになりますよね。
城戸
そうですね。業務を可視化する過程で業務のことがよりわかるので、新しい課題も見えてくる。「もっとこうしたらいいのでは?」という意見が増えたように思います。彼ら彼女らの意見を基に、現場のアイデアから新サービス・新商品の開発につなげていくことができたのは、非常に嬉しい副産物です。
橘高
DXを実施してみて、発見や気づきなどはありましたか?

城戸
今までどおりの仕事はなくなると感じました。たとえばノーコード系ツールを使えばプログラミング不要でシステム構築ができます。同じように、自分たちが今やっている仕事のなかでもなくなっていく仕事があることを実感しました。恐怖、といってもいいくらいの気持ちです。
長久
従来どおりの仕事をし続けたいと考えてしまう人も多いなか、重要な気づきだと思います。仕事がなくなってしまうかもしれないという危機感のなかで、必要なことはどんなことだと思いますか?
城戸
より多くの人がDXを操れる側の人材にならなければと考えています。事務系の職種であっても、ですね。DXやITのスキルを身に着けてもらう、学んでもらうことをより重視したいです。元々ITの研修などは積極的に導入していましたが、加えてITパスポートという資格の取得も積極的に支援しています。日本リビング保証は元々、社内で励まし合ったり教え合う風土を持つ会社です。組織全体で、DXについて学ぶ空気感の醸成に繋げられているのでしょうね。

4経営層の仕事は、やると決めて旗を振ること。
メンバーには、よりよい未来を見せる。


中央左は日本リビング保証株式会社 代表取締役社長 安達 慶高氏

橘高
社内でDXを推進するにあたり、経営層がやるべきことはどんなことだと思いますか?
城戸
最も大事なのは、とにかくやると決めて旗を振り続けることですね。そして勇気を持って変わろうとすること。
長久
多くの企業にとっては、その「変わる」ことが本当に難しいのだなと感じることがあります。人の問題だったり、通常業務で手一杯になってしまっていたり。
城戸
そうなんですよね。変わる=今までの方法をいったん捨てることは、現場ではすごく勇気が必要だと思います。でも、今の仕事だけやっていても、その仕事はもうすぐなくなるかもしれないんです。私自身が実感したからこそ、伝えたい。今の仕事が何十年も変わらないことはありえないので、ならば変化に流されるのではなく自ら変えるために動くのがトップの仕事ではないでしょうか。
長久
現状維持だけを意識していても、現状は維持できないということですね。
城戸
人手不足やメンバーの理解が得られないという課題は、もちろんあると思います。私たちの会社でも、やはり変えたくないと考えているメンバーがいました。しかし、変えていくことの重要性を伝えることが経営層の仕事です。仕事のやり方が変わったり組織体制が変わったりするのであれば、それを嫌う層がいるのは当然でしょう。そこだけを見せるのではなく、その先に何があるかを示したい。よりよい仕事にするために、よりよいアイデアを生み出していくため、みんなにより楽しく働いてもらうため。組織のいい未来を見せることが必要です。
橘高
未来を見せながら、そのために今変わることを伝えていかなければならないんですね。

城戸
やり方次第だと思います。シンプルに楽しく活気ある職場って、結構つくれるものですよ。
橘高
今後やりたいことや課題はありますか?
城戸
このままDXは進めていきたいと思いますが、工夫は必要だと思います。例えば、DX100%を目指すと、いきなりハードルがあがってしまい、腰が引けます。例えば60-70%程度目指すとか。
また、今回DX化で実感したのは、逆に人対応の可能性。
DX化に仕事を取られてがっかりするのではなく、有人対応の品質を上げてプレミアム化し、当社サービスの強みにのひとつにしていきたいです。
橘高
なるほど、よくわかりました。本日はありがとうございました。
城戸
ありがとうございます。
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