2024年6月3日に経済産業省より「グローバル競争力強化に向けたCX研究会報告書―グローバル競争時代に求められるコーポレート・トランスフォーメーション」という報告書が出され、業界の注目を集めています。その内容は、多くの日本企業が置かれている状況や課題を的確に分析しているものであり、従来の母国市場を中心としたいわゆる“日本的経営”ではグローバルに展開・拡大されている戦線をマネージできなくなっていることに警鐘を鳴らしています。
これに伴い、今後ますます「CX(コーポレート・トランスフォーメーション)」という言葉が一般的に使われ、企業としてどのように取り組んでいるかが問われる時代になることが容易に予想されます。このコラムでは、CXを分かりやすく簡潔に解説し、まず何に取り掛かれば良いのかが最短で理解できるよう考えてみました。
1CX(コーポレート・トランスフォーメーション)とは
「グローバル競争力強化に向けたCX研究会報告書―グローバル競争時代に求められるコーポレート・トランスフォーメーション」に書かれているCX(コーポレート・トランスフォーメーション)とは、一言で言えば「企業変革」ということです。
みなさまが実感している通り、製造業を中心として日本企業のグローバル化は急速に拡大しています。経営や組織は複雑になり、「仕組み化」は遅々として進んでおらず、利益の拡大が伴わないケースが多くなってきています。
そんな中、新卒一括採用・終身雇用・年功序列といった日本人従業員を中心とした人材態勢、さらに、現場に過度に依存した組織構造、人事管理、暗黙知(阿吽の呼吸)による業務といった旧態依然のやり方を大きく刷新するCXが急務となっています。
CXとは、単に既存の業務プロセスや手順を効率化し、生産性や品質を向上させるための取り組みといった業務改善にとどまらず、企業全体の戦略、構造、プロセス、文化、技術などを包括的に見直し、大幅に変革することを指します。企業変革のためには表層的な打ち手を繰り返したところで効果は薄く、構造レベルから発想の転換が不可欠であり、中枢のシステムそのもの、いわばOSの革新を必要とします。
これがCX(コーポレート・トランスフォーメーション)なのです。
2なぜこれまでCXが進んでこなかったのか
(CXを阻む壁)
1.で述べたような組織変革は以前から叫ばれ、企業・経営としても長らく認識されてきましたが、残念ながら多くの組織は変わることができていません。その理由としては下記のような要因が考えられます。
- 変化への抵抗
特に長年続いている企業ほど、従業員や経営陣が変化に対して抵抗感を持ちやすく、現状維持を選びがちです。 - リソースの不足
CXには時間・資金・人材が必要で、このリソース確保が困難であったり、既存業務を続けながらCXにリソースを割り当てるのが難しい場合もあります。 - 技術的な知識不足
企業内に最新技術に精通した人材が不足している場合、どのように技術を導入し、活用すればよいのかがわからず、変革が進まないことがあります。 - 経営環境の不確実性
経済状況や市場環境の変動が激しい場合、企業は不確実な未来に対して慎重になり、大規模な変革に踏み切ることを躊躇します。 - 成功事例の不足
まだCXの成功事例が少なく、変革の方法や有効性が共通認識化されていないことがあります。
これらの要因が重なり、過去には企業がCXに十分に取り組めなかった、もしくは取り組むこと自体に消極的であったと考えられます。過去には、同質的な「阿吽の呼吸」方式の組織運営や集団的意思決定が非常にうまく機能し、成果を上げてきたことは否定しません。
しかし、現代の急速な技術革新や市場環境の変化により、これまで以上に変革が不可欠であることが明確になってきているのです。そのハードルの高さゆえに、課題自体は永らく認識されてきましたが、多くの日本企業は変わることができていないのです。
3なぜいまCXに着手すべきなのか
液晶パネル、DVDプレーヤー、カーナビなど、エレクトロニクスを中心として様々な製品で”技術で勝ってビジネスに負ける”と言われてきました。ここ数年でDX(デジタル・トランスフォーメーション)は大きく進んできましたが、多くの日本企業において全体設計や標準化が不十分な状況で、「強い現場」に任せた現場起点のシステム導入/刷新(DX)を進めてきた可能性があります。
より根本的な課題は「現場任せ」「コーポレートの不在」にあるのではないかと、本報告書では述べられています。現場のチカラは確かに日本の強みではありますが、グローバル競争時代における競争力強化には、強い現場から生み出される高い技術力に裏付けられた高品質な製品・サービスを磨くだけでは不十分です。“現場力の高さ”に “強いコーポレート”が組み合わさり、両輪で組織が駆動する必要があるのです。
不確実性の高い市場環境でもイノベーションを起こし、稼ぐ力を高めていくためには、ビジネスモデルとビジネスプロセスを継続的に刷新し続けなければなりません。その背骨となるのがコーポレート(CX)であり、そのツールとしてのデジタル(DX)なのです。
4 CXの第一歩、
まずはコレから始めればOK
本報告書では、CXの方法として下記のような進め方が提示されています。
- 組織設計/パーパス・コアバリューの明確な言語化
- ファイナンス機能の構造的な問題点を的確に把握し、データドリブン経営を実践する ためのグループ内の共通基盤を整備
- HR機能の在り方を見直し、ポストの責任と権限、目標と評価基準を明確に言語化し、リーダーシップパイプラインや人材プールを整備
- DX機能はBPM(ビジネスプロセスマネジメント)やSSC(シェアードサービス)への集約も含めて組織横断のDXを推進
どれも必要性は理解したとしても、ハードルが高く、まず何から着手すればいいか戸惑ってしまうことも考えられます。また、「必ずしも全ての企業が全方位的なCXに取り組む必要はない」ということも本報告書では述べられています。製品やサービスの質、競争環境等に応じて、必要となる打ち手は異なります。やみくもに社内にプロジェクトを立ち上げたり、その場で考えついた打ち手に走っても、頓挫してしまったり、成果が出ないリスクも十分に考えられます。
そこで、まずは「現状分析と診断」から始めることが成功への近道です。現状分析とは、現在の業務プロセスを洗い出してそこから課題や評価を行うこと。それを踏まえた組織構造の検討を行い、強みと弱みを把握し、優先的に取り組むべき課題を特定します。
少し遠回りな気もしますが、本質的なCX、中長期的な組織変革に取り組むには、「何を解決すべきなのか」というスコープを最初に丁寧に設定することが、結果的には近道であり、CX成功への第一歩なのです。
「そうはいっても何から始めればいいか分からない」「そこに割けるリソースが不足している」そんな時は、ぜひアメリスにご相談ください。緻密な業務プロセスの洗い出しから現状分析、診断、そして打ち手の立案は弊社の得意分野であり、これまでのノウハウも多く蓄積されています。例えば、社員2000人超・創立100年の大手企業様のCXを支援させていただいたケースや、放送・通信事業の企業様で社員に寄り添いながら業務の体系化に取り組んだケースなど、これまでの取組事例も多数あります。ぜひ一度気軽にお問い合わせください。